続イラク便り



『図書寄贈プロジェクトの開始』2005年11月

奥・井ノ上イラク子供基金の選定委員会でイラクの小学校に図書を寄贈するプロジェクトが承認されたのは、今年(2005年)の3月のことでしたが、11月14日にプロジェクトを始めることができました。小学校に本を贈るという日本では簡単に見えることも、イラクではなかなか一筋縄ではいきません。

 

まず、どういう本をどこで調達しようか、ということについてはイラク国内だけではなく、周辺国の事情も調査しました。イラク国内では、日本でイメージするような子供向けの立派な本はほとんど見かけません。イラク国内で購入できた子供用の本は、教科書を除けば、日本で言えばパンフレット程度の厚さしかないものばかりでした。しかし、周辺諸国で調達すれば、イラク国内までの輸送にはかなりのコストとリスクが予想されます。最近はひと時に比べれば襲撃は減ったということですが、例えばヨルダンからバグダッドへの道においては、輸送トラックや一般車両などに対する略奪、襲撃事件が絶えません。 “Nothing is impossible in Iraq, but everything is very difficult.”(イラクで不可能なことは何もないが、でも何であってもとてもむずかしい)

イラクに来てすぐに、ある米国人から言われた言葉ですが、イラクで過ごしているとこの言葉はほんとにぴったりという感じです。モノをイラク国内に送るということも例外ではありません。そこで、本の選択については、まずはバグダッド市内で購入可能なもの、ということにしました。

 

さて、プロジェクトを始める前に、ある小学校の校長先生ともお話したのですが、最初は本を寄贈して頂くのは学校限りで受け取れる、と言っていましたが、プロジェクトの準備が進んだところで、やはり教育省の許可が必要だろう、とのお話しがありました。イラクの中央集権的な制度の名残があるようで、政府関係の組織が何かモノや資金を支援してもらう場合には所管の中央官庁の許可がいるようになっているというのです。不正や腐敗を避ける、というのが名目らしいのですが、これまでの経験からすると、かなりの時間がかかりそうです。教育省の許可を取るために、どのような手続きが必要なのか、調べてもらうと、「「配布するのが、NGOであれば、どのようなNGOか、報告・登録してもらって、どのような本をどういう学校に配布するのか、を報告してもらい、省内で審査をして、最後は大臣の決裁をもらって許可を出す。配布するのが個人であれば、NGOの登録は不要であるが、どういう本をどういう学校に配るかというのは、同じように報告してもらって、後の手続きは同じ。」ということでした。という、聞くだけで時間がかかりそうなプロセスです。

 

そのうち、プロジェクトの準備を手伝ってもらっていたイラク人の人が病気になるという事態も起こりました。やはり、このようなプロジェクトを実施していくためには、現地で実績のあるNGOと協力していくのが、良いようです。イラクには戦後たくさんのNGOができましたが、NGOを担当する市民社会大臣自身がイラクのNGOの中には犯罪行為を行っているものも多い、などと発言するなど、玉石混交のようです。
 適当なNGOを探した結果、Charitable Society for Caring & Rehabilitation of Iraqi ChildrenというNGOの方とお話しすることができました。このNGOは、イラクの子供たちの支援に相当の実績があり、もちろんイラク政府への登録も済ませています。彼らに奥・井ノ上イラク子供基金のプロジェクトについて説明したところ、彼らは、本件プロジェクトの実施に是非協力したい旨述べ、教育省の許可についても彼らが取得するということができます、と返事をしてくれました。

 

Charitable Society for Caring & Rehabilitation of Iraqi Childrenの仕事は、なかなか効率的で、イラクの小学校に本を寄贈するというプロジェクトについて早々に教育大臣の許可も取ってくれました。本を配布する小学校のリストの作成、配布用の車の調達の検討などもこのNGOが積極的に行い、11月12日にプロジェクトの実行のための契約をこのNGOと結びました。配布した小学校の様子などもデジタルカメラで撮ってもらうことになり、何枚かがこの奥・井ノ上イラク子供基金のHPにも載っています。

 

実際に配布を始める時の問題は、やはり治安です。Charitable Society for Caring & Rehabilitation of Iraqi Childrenのスタッフが、それぞれの小学校に行くときも安全面に十分注意をする必要があるそうです。小学校の先生方の今の一番の心配事も子供たちの安全のようです。小学校の校長先生の中には、教育省の許可があるかどうか心配していた方もおられたそうですから、やはり許可はしっかり取っておく必要があったようです。

 

こうして、奥・井ノ上イラク子供基金のイラクでの活動は始まりました。これからは、こうしたプロジェクトを継続していくとともに、イラクの子供たちと日本の子供たちが何かの形で交流できるようにできれば、と考えています。




ページトップへ